どくしょのじかん 3


秦郁彦先生の『慰安婦と戦場の性』はその引用文献の多さと、不正確かつ恣意的な引用だけが醍醐味ではなく、秦先生がお書きになる文章そのものにも歪んだ趣きがあるのです。今回からしばらく、『第九章 クワラスワミ旋風』からの抜粋を少しずつ紹介していきたいと思います。


この章では、国連、NGO朝日新聞、吉見先生、クマラスワミ報告、ジョージ・ヒックス、日本政府、元慰安婦吉田清治・・・まぁ、手当たりしだいに叩いておられます(根拠は思い込みとハッタリですが、その分析は後ほどゆっくりとw)。
まさに窮鼠じゃないのに猫噛み孤軍奮闘、脳内正義のヒーロー。

正確に言えば、〔クマラスワミ報告書の〕標題は「戦時の軍事的性的奴隷制問題に関する報告書」(日弁連の訳)である。英語の原文を参照すると、「朝鮮民主主義人民共和国、韓国および北朝鮮への調査旅行による」と限定していて、日本人やその他のアジア諸国への慰安婦には言及していないので、実質的には第二次世界大戦期に日本の植民地(外地)だった朝鮮半島出身の朝鮮人慰安婦だけが対象とされている。

「軍用性的奴隷制」(military sexual slavery) とはおどろおどろしいネーミングだが、いわゆる「従軍慰安婦」を指す。


(260〜261ページ)
(なお、 〔    〕内の補足および強調は引用者による。また、漢数字は、適宜、英数字で表記した。以下同じ。)


「戦時の軍事的性的奴隷制問題に関する報告書」   日弁連って名前で信用させて、

「・・・調査旅行による」と限定していて」     ハッタリかませて、

「日本人やその他のアジア諸国への慰安婦には言及していない」   反嘘ついて、

朝鮮半島出身の朝鮮人慰安婦だけが対象とされている。」   無理矢理断定するんですね。

英語が苦手な人や情報を得ない人、得られない人をたぶらかす気満々です。


ちなみに、「クマラスワミ報告書」の標題(実はこれもの一部なんですが)はこれ。

Report on the mission to the Democratic People's Republic of Korea, the Republic of Korea and Japan on the issue of military sexual slavery in wartime (E/CN.4/1996/53/Add.1)


http://space.geocities.jp/japanwarres/center/library/cwara.HTM戦時における軍事的性奴隷制問題に関する朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国および日本への訪問調査に基づく報告書
クマラスワミ報告 解説 【荒井信一】

それに、「朝鮮半島出身の朝鮮人慰安婦だけが対象」ではありません。本文は英語でお読みになられたはずなんですが・・・

5. The Special Rapporteur wishes to underline that the discussion of the subject-matter of the present report should be applied to all cases of former "comfort women" victims, and not only to those on the Korean peninsula. The Special Rapporteur regrets that due to financial and time constraints it has not been possible for her to visit surviving women in all countries concerned.


5.特別報告者は、この報告書の主題の論議が、朝鮮半島の被害者のみならず、元「慰安婦」被害者の全ケースに適用されるべきことを強調したい。特別報告者は、財政的・時間的制約のために、すべての関係国の生存被害者を訪問できなかったことを残念に思う。

何度も、しつこく言い続けたいと思いますが、こんなトンデモ、ゴマカシがページ毎に出てくるんですから、

この小文でも紹介したような、写真や図表の無断盗用、資料の書換え・誤読・引用ミス、資料の混同、意味を捻じ曲げる恣意的な引用・抜粋などの例をリストアップしてみたのですが、膨大な量になりあきれてしまいました。どこかで公表しようかとも考えたこともありましたが、バカらしくなってやめました。

との関東学院大学林博史先生のため息交じりのお言葉、すご〜くよくわかります(偉そうにすいません)。
秦郁彦『慰安婦と戦場の性』批判


なお、秦先生の著作などへの批判を、hokke-ookaimi さんが秦郁彦教授は本当に…… でまとめておられます。


呆れ果てついでに、もうひとつ、秦先生の本音のひとつかな?って思える部分を紹介します。

新聞のなかで慰安婦問題にもっとも熱心な朝日は、〔1996年〕2月6日付夕刊の第1面に〔クワラスワミ報告の〕概要を報じた後、第10面に詳しい解説記事をのせている。

(略)

吉見は「クワラスワミさんから直接聴取を受けた」と紹介されているが、同じく聴取を受け、報告書にその内容が実名で登場する二人のうちのもう一人である私は、〔朝日から〕何のコメントも求められなかった

(263〜264ページ)


これに似た文章は他にも出てくるので、また取り上げたいとも思いますが・・・


それから、もう一つ。


秦先生は、『「従軍」慰安婦じゃない「慰安婦」だ!』とは言ってないと思うんですが、どうなんでしょ?