論破より先にすることがある 1

桜井誠反日韓国人撃退マニュアル』(晋游社、2009年)という本を買った。


何でも「韓国人の嘘・捏造を完全論破!」らしい。

慰安婦」に関する章があったのでツラーっと読んでみた。


あれ?あれ?あれれれ? こんな内容で論破なんて無理!

だって、間違い間違い間違いの連発だもん(笑)


いちいちほじくり返そうと思うが、ちびりちびりとやっていく。



とりあえず、どうしても解いておかないといけない誤解について書いておく。

…文玉珠という自称慰安婦【*3】という自称元「従軍慰安婦」が起こした貯金の返還請求裁判だ。戦時中にビルマミャンマー)で慰安婦として働いていたとき(一九四三〜一九四五年)、売春業で貯めた二万六一四五円を郵便貯金軍事郵便貯金にしていたが、戦後の混乱期に通帳を紛失してしまったという。その返還を求めて一九九二年に裁判を起こした。*1


(不適切な表現は引用者が削除もしくは訂正した。以下同様。)


文玉珠ハルモニは1992年4月13日、『アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件』に原告として加わったけれど、この訴訟において彼女は自分が貯めた軍事郵便貯金の返還を求めてはいなかった。この訴訟の「請求の趣旨」*2は以下の通りであるからである。

一、被告*3は原告らに対し、各金二千万円を支払え。
ニ、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言を求める。


実は、文玉珠ハルモニは軍事郵便貯金の返還を求める訴訟を起こそうとしていたのだが、それは実現することなく、彼女は1996年10月26日に亡くなっている。ちなみに、桜井書では上記【*3】の説明で文ハルモニの死去について「一九九七年に死去。*4」と記述しているが誤りである。


また、太平洋犠牲者遺族会の裁判に関するこの記述もおかしい。

 この河野談話が出された後、太平洋犠牲者遺族会【*2】が元「従軍慰安婦を自称する朝鮮人の元売春婦などを担ぎ上げて、日本政府に賠償を求めて裁判を起こした。しかし、二〇〇四年一一月二九日の最高裁判決で原告敗訴が確定し、日本政府に賠償の義務が存在しないことが確定されたのである。*5

この「太平洋犠牲者遺族会」が起こした訴訟が上記の『アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件』で、訴訟日は、第一次が1991年12月6日、文ハルモニも原告となった第二次が1992年4月13日であり、いずれも、河野談話発表(1993年8月4日)以前である。ちなみに、上記引用中の【*2】の解説で太平洋犠牲者遺族会が「一九九七年には韓国で社団法人として認可された。*6」とあるが、これは1992年の誤りである*7


慰安婦」の証言の年数の違いをつついて証言自体の信憑性に疑義を呈する手法を桜井氏も用いているが(後日、別エントリで紹介予定)、ご自分の誤記もしくは誤認について先に訂正なされたほうがよいし、そのようなことをご自身がなさっている(故意か無意識かは別として)事実を深く考慮の上で「慰安婦」たちの証言を再検討されることを強くお勧めする。


なお、文ハルモニの訴訟については以下のような文章がネット上で多く散見される。

平成4年に韓国の「元従軍慰安婦」文玉珠が起こした、「戦時郵便貯金の払い戻し請求訴訟」別名「下関裁判」というのがあった。
文玉珠は戦時中にビルマで「従軍慰安婦」をして貯めた26,245円を郵便貯金にしていた。その中から5,000円を朝鮮の実家に送ったが、敗戦後の混乱の中で貯金通帳を紛失してしまった。昭和40年に貯金は失効した。
それを27年後の平成4年になって、貯金の払い戻しを国に要求したのである。*8


文ハルモニは軍事郵便貯金の払い戻しを求める訴訟を起こす前に亡くなられたので、当然、『「戦時郵便貯金の払い戻し請求訴訟」別名「下関裁判」』などという訴訟は存在しない


同様の内容で以下のようなものもある。

1991年12月、金学順(キム・ハクスン)、金田きみ子(仮名)らと共に日本政府に謝罪と補償を求めて提訴。2004年11月最高裁棄却により敗訴確定。(アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求訴訟)
1992年に日本の郵便局を相手に26,145円の貯金返還の訴訟を起こす。2003年3月最高裁上告棄却により敗訴確定。(戦時郵便貯金の払い戻し訴訟(別名:下関裁判))
1996.10.26死去。*9


2003年3月に最高裁で上告を棄却された「慰安婦」関連の裁判は、『釜山従軍慰安婦・女子勤労挺身隊公式謝罪等請求訴訟「関釜裁判」 』であり、この裁判の地裁判決を「下関判決」と呼ぶ*10ことから混乱が生じ、尾ひれをつけた形で広がり、上記のような半嘘がネット上に広まったものと推測される。


*1:桜井誠反日韓国人撃退マニュアル』(晋游社、2009年)、78ページ

*2:http://www.awf.or.jp/pdf/195-k1.pdf 、4ページ

*3:引用者注:日本国

*4:桜井、78ページ下段

*5:同書、84ページ

*6:同書、84ページ下段

*7:http://www.zephyr.dti.ne.jp/~kj8899/izoku_kai.html を参照

*8:夢空廊漫遊(陽炎)http://blog.livedoor.jp/aramar88/archives/51247022.html

*9:http://sikoken.blog.shinobi.jp/Entry/23/ 参照

*10:http://www.kanpusaiban.net/toha.htm 参照