『狭義・広義の「強制」』:藤岡信勝先生のご高説


id:Jodorowskyさんの『ホドロフキの日記帳』7月14日のエントリ『日本の国益と名誉を守る』に、『新しい歴史教科書をつくる会』の機関紙『史』平成19年5月号(通巻62号)に掲載されている藤岡信勝先生、松原仁衆議院議員稲田朋美衆議院議員の『鼎談』なるものが紹介されている。

その中で、『慰安婦』問題の『広義の強制』『狭義の強制』に絡めた会話がある。そのトンデモぶりは元記事を読んでいただくとして、ここは、以下の藤岡信勝先生の発言だけを取り上げてみる。

稲田

 河野談話は、強制性を認めたととるのだ普通の読み方だと思います。そうすると、河野談話を引き継いだ上で、今のアメリカの決議案は客観的事実と違うと言う、慰安婦は二十万人ではなかったと言いたいのかとか、そういう程度の差の問題になってしまいます。そうではなく、質的に強制連行はなかった、日本は北朝鮮と違ってて国家として若い女性を連れてきた事実はなく、その女性たちを性奴隷にしたという事実もないという主張をするためには、河野談話を引き継いでいる限りできないんです。そもそも「性奴隷」という言葉自体も問題です*1

 

藤岡

 安倍総理が広義の強制はあったかもしれないが、狭義の強制はなかったと言ったが、あれは外国にはまったく説得力がないんです。だけど、我々が聞いていると何が言いたいのか分かるわけです。*2

 

松原

 分かる、分かる。

 

稲田

 強制連行なんてなかったって言いたいんですよね。


藤岡

 広義と狭義というのは、実は九七年の三月三十一日に朝日新聞が見開き二面で慰安婦問題の総括をしていて、そこで使った論理なんです。だから、安倍総理朝日新聞の論理を逆に使って、広義は認めても狭義の方はなかったことを強調したかったのでしょうが・・・・・・。


藤岡先生、ほんまか?


つうことで、『九七年の三月三十一日に朝日新聞』の『慰安婦問題の総括』とやらを見てみる。

■『従軍慰安婦消せない事実 政府や軍の深い関与明白
 ・経緯新学期から教科書に戦後、長く問題置き去り
 ・強制性人権の観点が必要本人意思に反し自由侵害
 ・徴集(募集) 「無理やり」を認める供述
 ・従軍慰安婦はだれが、どのように集めたのか。
 ・輸送・移動「指示」「便宜」文書残る
 ・設置・管理軍が民営に物資、直営も
 ・65人、謝罪・補償訴え各地から多数が名乗り日本政府の主張と対立
 ・慰安婦たちの思い*3
 ・4月から中学校で使われる歴史教科書の「慰安婦」に関する記述
 ・被害者でなければ語り得ない証言「談話」当時の官房長官河野洋平氏に聞く
 ・慰安婦関係調査結果発表に関する内閣官房長官談話1993年8月4日(全文)
 ・慰安所慰安婦訴訟


このような見出しが並ぶ、2ページに及ぶ記事の中には『広義』『狭義』という表現は一切でてこない。あれ?

同日の朝日新聞社説『歴史から目をそらすまい』にも『広義』『狭義』という表現は出てこない。あれ?あれあれ?

■『歴史から目をそらすまい』(朝日新聞、1997年3月31日、第5面)


 旧日本軍の従軍慰安婦をめぐって、日本の責任を否定しようとする動きが続いている。一部の学者や国会議員、新聞などは、中学校の歴史教科書から関連記述を削除するように求めている。
 これらの主張に共通するのは、日本軍が直接に強制連行したか否か、という狭い視点で問題を捉えようとする傾向だ。
 しかし、そのような議論の立て方は、問題の本質を見誤るものだ。資料や証言をみれば、慰安婦の募集や移送、管理などを通して、全体として強制と呼ぶべき実態があったことは明らかである。

狭い視点で』という表現が、ここに出てくるがもしかしてこれのこと?なんだかなぁ・・・


この一連の『慰安婦』関連の記事に反論する形で産経新聞が翌日、1997年4月1日に記事を書いている。ちょっくら覗いてみる。

■「強制連行」は消えたのか、破綻した朝日の慰安婦報道 (産経新聞、1997年4月1日、第2面)


 朝日新聞三月三一日付の「従軍慰安婦*4に関する特集は、一見これまでの同紙の主張を、河野洋平官房長官の再度の証言(いずれも朝日)で補強したように見えるが、実際はこれまでの報道の破綻を浮き彫りにしたものである。*5

 
 拡大解釈によるすり替え

 第一に挙げなければならないのは、これまでは軍つまり国の元慰安婦「強制連行」を既成事実のように報じながら、このような強制連行は、いわば狭義のものであると軌道修正し、強制連行を事実上実証できないことを認めた点である。代わって登場したのが「募集、移送、管理」など、「広い意味(広義)」の「強制性」なる定義付けである。
 それは「従軍慰安婦 消せない事実」「政府や軍の深い関与、明白」との見出しを見開きでつけたことでも証明できよう。やはり「関与」こそが現時点では正確な表現なのであり、朝日はつまるところ誤りを認めたのだ。*6


いわば狭義のもの」って産経が勝手に言ってるだけじゃん。しかもだ、括弧づけで「広い意味(広義)」なんて、いかにも朝日新聞から引用してるように書いてるけど、そんな表現は朝日新聞の記事には一切書いてないぞ。

産経は、自分で「狭義」「広義」の概念を持ち出してきて、それをもって「朝日はつまるところ誤りを認めたのだ。」なんて書いてるが、こういうのを『牽強付会』と巷では言う。


こんなトンデモ記事でも信じてしまう一般読者はいるだろうが(それが「産経」のねらいなんだし)、大学教授がこれを鵜呑みにして「朝日新聞」に対する攻撃材料に使っているとは*7・・・


さらに、藤岡先生は、『強制連行』の定義についても辻褄の合わないことを言っている。

自著『「自虐史観」の病理』(文藝春秋社、1997年)では、

・・・一部には、業者にダマされたのも「強制連行」だ、などと詭弁を弄している人々がいるが、それならその業者の責任を問うべきで、日本国家の責任ではない。強制連行とは、そもそも日本政府の行為として無理矢理戦場に女性を拉致したことを指す。具体的に言えば、「軍・官憲による強制連行」のみが、強制連行の語義に合致する。(上掲書、134ページ)

と言っている一方で、2007年5月29日付『ハンギョレ新聞』のインタビュー記事では、

彼は”狭義の強制連行はないが、広義の強制性はあった“と言う安倍総理の発言に対しても問題を提起した。強制連行という言葉は、総連系在日朝鮮人らが自身の“存在の正当性”を立証する為に作り出した言葉だと主張した。


慰安婦, 韓国とアメリカも運営した公娼の延長(“위안부, 한국과 미국도 운영한 공창의 연장”)ハンギョレ新聞 - 2007年5月29日)"
日本語訳(柴野貞夫時事問題研究会HPより)

もう、アホらしゅうて・・・付き合ってられませんがな


藤岡先生にとっては、『狭義・広義』も、『強制連行』も、自論の正当性補強したり、権力者に阿諛するための便利な道具にしか過ぎないんだろうな。こういうのを専門用語で『ジコチュー』という。


現状では、「強制連行はない!」とひたすら言い募るしかない「ジコチュー」な人たちの断末魔の叫びに、「強制連行はあった!」と真っ向から反論するのは、やつらをわざわざ延命させるようなもんかもしれない。


「軍の『慰安婦』「強制連行」の命令書を出して来い!」って言い出したら、やつらはほぼ逝きかけてる証拠かも(笑)

*1:「強制連行(拉致)」≠「性奴隷」なんだけどな、わかってないな・・・

*2:いきなり正直な敗北宣言っすか(笑)

*3:フィリピン、インドネシア、韓国の元『慰安婦』各1名の証言

*4:このころは「産経」も「従軍」をつけてたんだな。へぇ〜

*5:いわゆる『勝利宣言』(笑)

*6:「勝利宣言」パート2(爆)

*7:ちなみに、小林よしのり氏、西岡力先生はまた別の『狭義・広義の「強制連行」』起源説、もしくは『狭義・広義』の『強制性』起源説を展開してるが、それは次回以降に。