「真性真正保守」を公然と掲げた麻生総理
今日発売の『文藝春秋』 2008年11月号を買ってきた。お目当ては麻生太郎総理大臣の寄稿『強い日本を! 私の国家再建計画』である。
麻生総理は過去の著作の中でも自分の歴史認識、特に第二次世界大戦における日本軍の戦争犯罪(南京大虐殺、「慰安婦」問題、強制連行など)について明確な認識を示していない。
靖国神社については、『とてつもない日本』(新潮社、2007年)の中で、『靖国神社が、やかましい議論の対象になったり、いわんや政治的取引材料になったりすることは絶対にあってはなら』ず、『時の政治から、無限に遠ざけておく』)とし、靖国神社にあるのは『明治以来の集合的記憶』であるから『それを後世の私たちが「なかったことにしましょうとはできない。だから靖国には代替施設はつくれない*1』と述べ、『靖国神社を可能な限り政治から遠ざけ(「非政治化」し)、静謐な、祈りの場所として、未来永劫保っていく』と主張している。
この文藝春秋への寄稿においても『「非政局化」すべきテーマとして』『社会保障制度』『憲法改正』などとともに『靖国参拝問題』をあげている*2。麻生総理の主張からは日本軍の戦死者や遺族への想いは感じられても、日本軍の犠牲になった世界各国の2,000万人にもおよぶ人たちへの想いや加害国家としての反省や謝罪の気持ちは感じられない。
この『強い日本を!』でも、麻生総理の第二次世界大戦における日本軍の戦争犯罪(南京大虐殺、「慰安婦」問題、強制連行など)についての認識は示されていない。ご自分の言葉による明確な提示を期待していただけに非常に物足りない。野党は、この点についてさらに追求をしていってもらいたい*3。
『強い日本を!』を読んで、わたしが慄然としたのが次の部分である。
いよいよ、私が見定めてきた「真正保守再生」の幕開けの秋がきたと感じる。歴史の教訓から学び、破壊より建設を、混乱より安定を追い求めるのが真正保守の真髄である。日米安保改訂や消費税導入をはじめ、真に必要な施策なら断固導入し、そして経済成長と同時に平等を、日米関係を中心にした国際協調と平和とをもたらしたのが戦後保守の本領ではないか。対決と破壊を志向したかつての革新とは違う。選挙に勝つためには自分の政治信条すら変転させ、政権交代だけ実現すれば事足れりといった小沢一郎氏とはさらに違う。ここで我々が真正保守の核を結晶させれば、平沼赳夫氏ら今は不幸にも党外にある多くの有志もこの輪に加われるはずだ。
(95ページ、強調は引用者)
平沼赳夫衆議院議員は『「自民党と公明党を足しても、また民主党も過半数に届かない。我々が(政界再編の)キャスチングボートを握る」』ことを目的として『元自民党衆院議員の城内実氏ら候補者の支援を続け、当面は計14人の「平沼グループ」として衆院解散後に公約を示す方針』*4で次の衆議院選挙に臨む。
例えば、Wikipediaの『真・保守政策研究会』を見てもわかるように、麻生太郎総理、平沼赳夫議員、中川昭一財務大臣、安倍晋三元総理らは極めて緊密な関係にある。彼らはいわば盟友である。
次の衆議院選挙で、自公に加え平沼氏らの保守勢力が過半数を取ると、「われわれは国民の信任を得た」として、かなり強硬な政策を打ち出してくる可能性がある。麻生首相の掲げる「強い日本」の中身は何か、わたしたちは十分に警戒しておかなければならない。
*2:『強い日本を!』、104〜105ページ
*3:『麻生首相、省エネ投資に優遇税制検討=村山談話踏襲を表明−衆院代表質問』(時事ドットコム - 2008/10/02)と過去の談話を踏襲すると述べているが、個々の戦争犯罪については何も言っていない。
*4:『「平沼グループ」14人で総選挙 新党つくらず無所属で』(asahi.com - 2008年10月4日