Next Sori, Next Sorry


碧猫さんのブログ「13日の水曜日」の7月1日の記事 「ラントス氏やペローシ氏について、メモ 」を読んでいて、麻生外務大臣の発言が妙に気になった。

引用

陰謀論嗜好の人達に言わせると、ラントス氏やペローシ氏が「慰安婦」非難決議に賛同するのは、「日米(関係)を離間させる有効な手段だ。対日工作、日米離間工作が結構それなりに効果を上げて」いて、もちろん「北朝鮮や中国による工作」による結果であるらしい(麻生外相の3/11日フジテレビ番組における発言)。 


ふと思い出したのだが、マイク・ホンダ議員が出した"H. Res. 121"に対する日本政府高官の発言で、安倍首相より先に国際的に問題になったのも、予算委員会での麻生外務大臣の発言だった。そのときの質問者が稲田朋美議員であることも興味深い偶然の一致であるし、稲田議員の発言にいろいろな含みがあるように感じたので、少々長くなるが、気になった部分を強調などを施して以下のリンクより引用する。


第145回国会衆議院予算委員会 平成19年2月19日(月曜日)衆議院TV

○稲田委員 わかりました。

・・・ 次に、私たち個々人に名誉があるように、国家にも名誉があると思います。これは何も真実と違うことを美化して言うとかそういうことではなくて、いわれなき非難を受けたときにはきちんと反論することであると思います。

・・・、また、今度は日系の下院議員から同じような決議案が出されています。その中では、二十万人という具体的な数字は落ちておりますけれども、ほとんど同じような内容で、最後には、日本の公式な謝罪を求める、若い女性を日本帝国軍隊が強制的に性的奴隷化したことを公式に認めて謝罪せよ、日本の首相は公的立場において声明としてそれを公にすべきであるというような決議案がなされていて、二月十五日には公聴会が開かれた。

・・・ 我が自民党でもこの問題については勉強会が開かれていて、中山成彬元文部大臣、また中山泰秀先生などが、日本の前途と歴史教育を考える議員の会で勉強会を開いております。この会は平成九年に、中川昭一先生が代表、そして今の総理が事務局長で発足した会で、そのころは安倍総理も、この従軍慰安婦問題については強制性について全く証拠がないんだということもおっしゃっていましたし、その証言をした吉田清治なる人物、この証言を本にまでして、朝日新聞などで勇気ある証言だと非常にもてはやされた人物ですけれども、この人物が詐欺師のようなうそつきで、全く根拠がないというようなことも総理は当時認めておられたわけです。

 こういった問題について、麻生大臣は、この決議案に書かれているような破廉恥な、つまり、日本帝国軍隊が若い女性を強制的に性奴隷にして、あげくの果てに殺したり自殺に追いやったなどという事実があったという御認識なのか、また、そういった事実がないというのであれば、この決議案について政府としてどのように対応されていかれるつもりなのかについてお伺いいたしたいと思います。


○麻生国務大臣 基本的に、全くそのような事実を認めておる立場にはありません。

・・・ この決議文の内容ですが、法的拘束力が全くないものでありますし、また私どもから見て、客観的な事実には全く基づいておりませんので、日本政府の従軍慰安婦の問題に対する対応に関しても、これを踏まえて対応しているというようなことがありませんので、甚だ遺憾なものだと思ってもおります。


○稲田委員 ぜひとも、その決議案の内容が客観的事実とは異なるんだという今の麻生大臣の御認識をアメリカに対しても発信していただきたいと考えております。

・・・ そこで、官房長官にお伺いいたしますが、この河野官房長官談話、安倍総理も以前は非常に問題だというふうに認識を示されていたんですが、この談話を変えるとか撤回するとか、そういったおつもりが政府としてあるのかどうか、その点についてお伺いいたしたいと思います。


○塩崎国務大臣 先ほど来稲田先生から御指摘のいわゆる慰安婦問題につきましては、政府の基本的な立場というのは、平成五年八月四日の河野官房長官談話を受け継いでいるというところでございますし、それは、安倍総理も同様のことを国会で答弁されていると思います。そういうことでございますので、政府としては、この談話を受け継いでいるということでございます。・・・


○稲田委員 
・・・ 総理は、予算委員会の質疑に答えて、強制性というのは狭義と広義があるんだと。狭義の、例えばこういう米国下院決議で書かれているような狭義の強制性はないけれども、広義の強制性はあるという趣旨なのか、ちょっとそこはわかりませんけれども、広義ということを言い出せば、本当に経済的理由で慰安婦になったとか、そういうことも含まれるのかもしれませんが、そういった点も含めてぜひ検討をしていただきたいと考えております。

・・・ 例えば、東京高裁の平成十五年七月二十二日判決。少し読みますと、「ささいなことを咎められて警察署に連行されて、拷問され、福岡と聞いている地に連れて行かれ、毎日何十人もの軍人に性行為を強要された。」などと書かれておりますし、また、平成十六年の十二月十五日判決、控訴は棄却ですけれども、中国で、「日本軍が占領した地域には、日本軍人による強姦事件を防ぐ等の目的で、「従軍慰安所」が設置され、日本軍の管理下に女性を置き、日本軍将兵や軍属に性的奉仕をさせた。」「日本軍構成員らによって、駐屯地近くに住む中国人女性(少女を含む。)を強制的に拉致・連行して強姦し、監禁状態にして連日強姦を繰り返す行為、いわゆる慰安婦状態にする事件があった。」などと、まさに米国の下院決議でしようとしているような内容のことが日本の判決の中に書き込まれているわけです。

 このように、裁判所が、請求自体は棄却しながらも、判決理由の中で事実認定をしているのはなぜかということなんです。

・・・

○稲田委員 私は、非常に問題だと思います。本当に何が国益なのか、主文ですら勝てばそれでいいのか。主文で勝って、理由中で次々と原告主張どおりの事実が認定されて、それは、私は国家の名誉を毀損することだし、国益に反することだと思っております。

 実際、きょう、お手元にタイム誌の資料をつけて、和訳もつけておりますけれども、それで何と書かれているかといいますと、侵略者はようやく侵略の事実を認め出したという内容の論文なんです。加害者は日本で、何が書いてあるかというと、その内容は戦後補償裁判の判決が書かれています。

 例えば、七三一部隊で日本軍がペスト菌をどこそこの村で散布して、何百何十何人の人が死んだ、どこそこの村では何百何十何人の人が殺されたと非常に細かい認定がされていて、それはどうしてかというと、国の代理人が事実関係を全く争っていないからです。

 それから、劉連仁さんの事件といって、北海道の炭鉱に、鉱山に強制連行されて、終戦前に逃亡して、十三年間逃亡生活をしていた人の遺族からの裁判についてです。当時の厚生省が終戦後その劉連仁さんをきちんと見つけてきて中国に帰すべき義務があったのに、それを怠ったということで、損害賠償請求を認めたんです。

・・・ 毒ガス訴訟もそうです。一審では全く事実関係を争わずに、東京地裁で平成十五年に請求認容の判決が出たんです。高裁になって初めて法務省は、日本が遺棄した化学兵器ではないという事実関係を争い出されましたけれども、遅いんですよ、高裁からでは。

 平和条約が締結されれば、それとは別に個人補償をどんどんと認めていけば、平和条約を締結した意味が全くない。・・・


○麻生国務大臣 これは、稲田先生、時間の経過は確かにある程度たっておりますので、大分薄れてきているというのは否めない事実だとは存じます。

 ただ、現実問題として、よく言われましたように、従軍という言葉を使われておりましたけれども、従軍というのは、医者とか僧侶とか記者とかいう言葉には当てはまるけれども、慰安婦というのは従軍対象の名前で使われるか否かというのは随分言われたところであって、結果として、いわゆる従軍慰安婦という言葉に置きかえられていったという経緯があります、御存じのとおりですけれども。

 そういったようなことを見るにつけ、この種の話は事実としてきちんと対応していくというのが本来の筋だと私も思っております。


稲田議員が言及していた"TIME"の記事はこれのことだろうと推測する。
TIMEasia.com | Japan: National Colors | 8/16/99
http://www.time.com/time/asia/asia/magazine/1999/990816/cover1.html



日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の主張、総理の真意、政府の対応は、このときから全く変わっていない。頑固ともいえるほど変わっていない。誰が何を言おうが妥協する気は微塵もない。

稲田議員が議員として弁護士として適格かどうかの論は置くとして、いみじくも稲田議員が指摘した強制労働の問題については、次の記事が大変興味深い。

Proof of POW Forced Labor for Japan’s Foreign Minister: The Aso Mines - Japan Focus(リンク先に日本語訳あり)


陰謀というものが存在いると仮定して考えるなら、それを張り巡らせているのは、韓国でも、中国でも、ましてやアメリカでもない(日本に陰謀を仕掛ける必要自体がアメリカにはない)。また、旧日本軍の戦争犯罪にケリがつくまで麻生太郎氏は総理大臣にはなれないし、ならない。平和主義者の祖父と大叔父を持つ安倍首相の後ろにいて、ときどき物議を醸し出す発言をして、ある方向に世論を誘導していく、今の麻生氏のポジションは彼にとっては美味しすぎる。