『内なる米英を討たん』としているのは誰?


前エントリーのコメ欄でbolsaespanolaさんのコメントを読んで、ふと思いつくことがあり、本棚から引っ張り出してきたのがこの本。

「大東亜共栄圏」の思想 (講談社現代新書)

「大東亜共栄圏」の思想 (講談社現代新書)

 奥村喜和男(1900〜69年)は、1935年(昭和10年)に企画院の前身である内閣調査官、37年に内閣情報官兼企画院書記官となり、41(昭和16)年から43年まで内閣情報局次長の職にあった。彼はこの職歴からも明らかなように、上からのファシズム化による戦争への途を推進した担い手の一人として活躍したばかりか、ことに戦時中は国民教化のイデオローグとしての役割をはたしたのである。彼の新聞・雑誌・講演・ラジオ放送を通じての教化活動のうち、特に注目すべきはラジオ放送であろう。


(上掲書、131ページ。漢数字は算用数字で表した。強調も引用者による。以下同じ。)


栄沢氏が紹介する奥村喜和男氏の言や論述はこうである。

 否定し排撃すべき「自由主義国家観」とは、国家の基礎を個人におき、その本質を個人の合計ないし「結合関係」に求めるとともに、個人の価値を国家や民族に優先させ、国家の任務を個の自由の実現におくものである。これに反して全体主義国家観は、個人の生命、財産、営業などすべてを国家の目的に「奉仕」すべきものと考え、国家は個人のあらゆる「生活部分」を指導・干渉できると考えるのである。この国家観に立脚する近衛新体制の目標は、政治・経済・文化・教育その他国民のすべての領域の「総括力」を国防のために結集できる国防国家を造りあげようとするところにある。(『変革期日本の政治経済』)


(同、133ページ)

 太平洋戦争は、武力線、経済戦、思想戦などを含む総力戦である。われわれの批判・克服すべき諸思想や人生観には、以下のものがある。自由主義、民主主義、個人主義共産主義、その他、国家利己主義、民族利己主義、帝国主義の別表現ともいうべき国際主義、金権主義、唯物的科学主義、物質本位・利潤第一の人生観などが、これである。


 ところで「思想戦の敵」は、ただ単に国外にいるだけではなく、国内やわれわれ自身の中にもいることを忘れてはならない。わが国は明治維新以来「欧州文化の摂取」に努めてき結果、「米英文化」の「余弊」が、われわれの思想や生活の中にこびりついているからである。


 ことにわれわれが、日本人の心を喪失したのは、大正時代である。国内産業は発展した。けれどもその反面では、「大和魂」の喪失、愛国心の蔑視、家族主義的な「醇風(ルビ、じゅんぷう)美俗」の破壊個人主義自由主義・利己主義・営利主義の出現、議会中心主義の跳梁や思想界における民主主義・実証主義の支配、その他国民生活に現れた享楽主義やアメリカ的生活様式の流行などの現象が現れることになった。こうしてわが国は、米英の思想的植民地のごとき観を呈するようになったのである。この「心中の賊」を討たねば、「東亜の新秩序の建設は固(ルビ、もと)より大東亜戦争の完勝」は、絶対に期することはできない。(『尊皇攘夷の血戦』)。

 戦争目的完遂の成否は、「対外宣伝」「対敵思想戦」の巧拙のいかんにかかっているとされている。内閣情報局は、大本営との緊密な連絡と日本放送協会の献身的な協力のもとに、対外的な「大思想戦を展開」している。特に海外放送では、米英の放つ「邪悪」な「デマ放送」を片っ端から粉砕するとともに、「大東亜戦争」が、米英の「鉄鎖」からアジアを開放し、八紘一宇の「皇道に則る東亜の新秩序」を樹立する崇高な「聖戦」である旨を、「反復説明」している


 われわれは、「米英的思想」を日本に侵入させることによって、武器なき勝利を得ようとしている敵の「思想謀略」に、断じて乗ってはならない。・・・・・・


 われわれの「戦争生活」は、日本精神に還るという一語に尽きている。生活の糧をえるために命をかけ、「贅沢」をして自動車を乗りまわすような米国の生活は「日本的」では決してない(『尊皇攘夷の血戦』)。


(同書、138〜140ページ)


いまさらもって「全体主義」を標榜することは有り得ないだろうが、「戦後レジュームからの脱却」を完遂し「美しい日本」を創ろうとしてる御方やそのシンパが言ってることと極めて似ているように思えてならない。

たとえ標榜するのが「民主主義」だろうが「自由主義」だろうが、接頭語として「日本型」とつければそれは「美しく正しい」ものだとして論を展開することは可能である。敵対する勢力はいかようにも選べる。意見の異なる勢力を「反日」認定すればそれでことが足りるからである。あとは、「反復説明」し、煽り立て「追随者」を増やせばよい。

慰安婦問題」を見る限り、彼らの策は結局のところは自爆し続けてるわけだが、一方でいまだに解決をする見込みは立たない。「慰安婦問題」以外で言えば、彼らは「世襲した権力」と「しつこさ」と「強引さ」を武器に各方面で攻勢をかけ続けている。甘く考えていると取り返しがつかなくなる恐れは大いにある。


ところで、現代の代表的「愛国」イデオローグって誰々なんでしょ?「一文字」君は置いたとしても、各分野にいっぱいいますが、代表的な人。慰安婦問題でいえばHさんとか、そういう感じの人。

関連リンク(というより面子が興味深い)

革新官僚ウィキペディア

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