こどものうつ:こんなに高い有病率とは!


今日、病院で大腸ポリープの検査結果を聞いた。先生から「『若年性ポリープ』みたいですけど、あなたは若年とはいえませんしねぇ(笑)」と軽口を叩かれつつも、病理の診断は『炎症性ポリープ』。10月30日にポリペクトミーで切除します。

良性のものでよかったと思いつつ、帰宅して『京都新聞』を見ると、1面に「小4−中1『うつ』4.2% 中1は1割強」というショッキングな見出しが目に飛び込んできた。


子供や保護者の不安を無闇に煽ってはならないが、教育関係者はこの結果を深刻に受け止めなければならない*1。いわゆる「ゆとり教育」を受けている子供たちに対する調査であり、何の客観的データもないまま、世論と感情的議論だけで「ゆとり」を悪者にして、カリキュラム教科、ついでに本音の「道徳」を教科に格上げして、教育委員会や国の学校への支配力をつよめた「脱ゆとり『愛国』教育」がどのような心理的影響を与えるかも、再調査で比較検討することができる。


大人の勝手な理想や理念のために、こどもたちはずっと振り回されてきたわけだが、これまで教育政策の成果や課題を科学的に検討することはなかったし、社会的問題になったものを封じ込めるか、教育行政以外の問題であると文部科学省は責任回避しつづけてきた。また、『学習指導要領』は法的根拠もないまま、教組つぶしのために使われ続けてきたわけだが、行政の願望どおり教組は弱体化した。教師は連帯と行政権力からの自由を奪われながら日々苦しい実践を続けてきたが、最大の犠牲者はこどもたちである。


以下、ネットで見つけた京都新聞と同じテーマの記事を紹介する。特に注目してほしい部分は強調した。

中1の1割が『うつ』 『自殺と関係』、対策急務 (東京新聞 - 2007年10月9日 朝刊) 魚拓

 小学四年−中学一年の一般児童・生徒七百三十八人に、医師が面接して診断した北海道大研究チームの調査で、うつ病とそううつ病の有病率が計4・2%に上ったことが八日、分かった。これまで質問紙を郵送する方式では例があるが、医師が面接する大規模な疫学調査は国内初という。

 有病率は、中学一年(総数百二十二人)に限ると10・7%に上った。研究チームの伝田健三・北大大学院准教授(精神医学)は「これほど高いとは驚きだ。これまで子供のうつは見過ごされてきたが、自殺との関係も深く、対策を真剣に考えていく必要がある」としている。

 調査は今年四−九月に北海道内の小学四年から中学一年までの児童、生徒計七百三十八人(男子三百八十二人、女子三百五十六人)を対象に実施。調査への協力が得られた小学校八校、中学校二校にそれぞれ四−六人の精神科医が出向き問診、小児・思春期用の基準などに基づき診断した。

 それによると、軽症のものも含めうつ病と診断されたのは全体の3・1%、そううつ病が1・1%

 学年別にみると、小学四年で1・6%、同五年2・1%、同六年4・2%と学年が上がるほど割合が高くなった

 就寝・起床時間や一日のうちに外で遊ぶ時間、テレビ視聴時間、ゲームをする時間、朝食を取るかどうか、など生活スタイルについても尋ねたが、分析の結果、関連はみられなかった

 これとは別に、高機能自閉症などの「高機能広汎性発達障害」や、注意欠陥多動性障害ADHD)が疑われたケースが2・6%あった*2が、日常生活や発達歴に関する情報がないため明確な診断には至らなかった

 うつ病やそううつ病と診断された児童、生徒の親らには、症状に応じて医療機関の受診を勧めるなどしたという。

 調査結果は十二日から徳島市で開かれる日本精神科診断学会と、三十日から盛岡市で開かれる日本児童青年精神医学会で発表する。

中1の1割「気分障害」 北大准教授 初の面談調査で判明 (北海道新聞 - 10/09/2007) 魚拓

小学四年−中学一年の児童・生徒に医師が面接して診断した北大大学院医学研究科の伝田健三准教授ら精神科医の調査で、うつ病やそううつ病などの気分障害と診断された有病率が4・2%に上り、中でも中学一年生は10・7%に達したことが分かった。伝田准教授は「有病率は欧米より高い可能性がある」と指摘している。医師が面接する大規模な疫学調査は国内初で、結果は十三日に徳島市で開かれる日本精神科診断学会で発表する。

 日本児童青年精神医学会によると、国内の精神科関連の疫学調査は、書面で回答する調査票方式はあるが、専門医による面談方式は初めて。欧米の面談調査も医師以外の調査員が大半で、医師のみによる大規模調査は世界的にも珍しいという

 調査は今年四月から九月にかけ、千歳市教委の協力を得て同市内の小学校八校と中学校二校で、内科検診時に小学四年から中学一年までの計七百三十八人に、十年以上の経験を持つ精神科医五−六人が個別に面談。気分障害が疑われる児童・生徒は三十分以上かけて行った。

 その結果、軽度のものを含めたうつ病やそううつ病気分障害と診断された児童・生徒は計三十一人(4・2%)に上った。このうち、うつ病は小学四年の0・5%から高学年ほど高率になり、中学一年では4・1%に達した。欧米でも、うつ病の有病率は年齢とともに上昇し、成人は5%前後で一定になるとされ、今回の調査も同様の傾向だった

 ただ、今回は陽性判定された七十八人をさらに医師が他の症状などを詳しく診察することで、健常や他の障害と思われる四十七人を除外し、三十一人を「真の気分障害」と診断した。このため、伝田氏は「疑陽性を除外した後の数値で欧米並みなので、有病率は実際には日本の方が高いかもしれない」と推測する

 欧米より高率の理由として伝田氏は、他国に比べ情報のはんらんから子供を守る手だてが少なく、大人同様にストレスを受ける情報に接してしまうことや、携帯電話やインターネットの発達、メールのトラブルで子供の人間関係が複雑化していることを挙げた

 予防法として、親は睡眠、食欲、好きなことを楽しむことに関して子供に変調がないかを、教師は欠席や成績低下、仲間での孤立などの兆候を察知*3し、専門医の診断・治療を受けることとした

 伝田氏が二○○四年に道内の小中学生に調査票方式で行った「抑うつ傾向」の調査や、他の研究者が道外で行った調査でも数値に地域差はなかったため、「今回の有病率は全国的な傾向を示している」と説明している。

 道教委が今月公表した児童生徒生活習慣調査(○五年)では、「抑うつ」傾向が疑われる「気分の調節不全」の高校二年生が全国平均のほぼ二倍に当たる15%に達したが、調査票方式で医師による診断を経ていないため、うつ病などの有病率に踏み込んでいない。


最後に、『京都新聞』の記事内の石川憲彦医師のコメントが重要な視点を提供してくれているので、記事より書き写して紹介する。

安心感と休養 投薬より必要

児童精神科医の石川憲彦さんの話

今回の調査データは、学校などの子供社会に不自然なストレスがかかっている現状への警鐘として位置付けられるが、一方で、診断された子供や親の不安をあおる懸念もある。
子供のうつ病は症状の重さに非常に幅があり、うつ病と診断されたからといって、すぐに投薬が必要ではない点に注意が必要だ。
いらいらなどの症状がある子供には、まず安心感と休養を与え、症状を生んでいる原因を周囲が協力して取り除いてやることが何より大切だ。


(引用者により適宜改行)

*1:プチ・エリートである教師は「うつは怠け」と密かに思っている手合いも多くなるわけで、もうちょっと勉強しろ!とだけ言っておく。経験主義だけで乗り切ろうとするな!

*2:これは他国の研究結果より少ないと思う

*3:察知できない教師が激増しているというのが私の印象