医療後進国への道を邁進する厚労省、マスゴミ


さまざまなブログやニュースで取り上げられている、リタリン規制の問題だが、まともな新聞記事がない。まだマシというか、事実を冷静に伝えようとしている朝日新聞の記事を引用しておく。


リタリン、うつ病の効能削除 厚労省朝日新聞 - 2007年10月17日) 魚拓

厚生労働省は17日、薬物依存が問題になっている向精神薬リタリン」について、うつ病に対する効能を削除することを決めた。効能を睡眠障害の「ナルコレプシー」に限定。来年1月にも、処方できる医師や薬局を登録制にするなど厳しい流通規制を始め、医師の安易な処方に歯止めをかける。

 製造販売元のノバルティスファーマが同日、うつ病の効能削除を申請し、同省の薬事・食品衛生審議会の部会で承認された。ただ、「末期がん患者のうつ症状改善にはリタリンが必要」とする意見を受け、医師の管理下で行う治験に限って末期がん患者に処方できる方法を残した。

 同社は専門医や医療機関のリストを作成。薬局は処方する時にリストの確認を求める。

 また部会は、リタリンと同じ成分を含む「コンサータ」を、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療薬として発売を認めた。リタリンと同様の厳しい流通規制をする。

今回の規制で影響を受ける疾患とその問題点

疾患名 問題点
難治性うつ、および遷延性うつ リタリンが処方されなくなり、勤務や社会生活全般に重大な影響が出る可能性が高い
未成年のAD/HD リタリンコンサータが麻薬という認識が広がると、親が診断を受けさせなくなったり、投薬を拒否する可能性がある。また、AD/HDをもった子供への偏見が強まる恐れがある。
成年のAD/HD リタリンコンサータともに適応外であり、治療薬がなくなる。勤務や社会生活全般に重大な影響がでる可能性が高い。
ナルコレプシー 専門医が近くにいない場合、そこへのアクセスの問題が起きる可能性がある。また、新規患者が診断される機会が減じる可能性がある。

上記の朝日記事が伝える、厚生労働省の部会の提出資料は以下のサイトで入手できる。
薬事・食品衛生審議会 医薬品第一部会資料

リタリンの発売元であるノバルティスが提出した資料から

○資料2 うつ病の効能削除の提案と流通管理について(ノバルティスファーマ(株) 提出資料)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/10/dl/s1017-5e.pdf

1.1 うつの効能削除について


SSRISNRI 等の新薬の登場によって国内でのうつ病治療の選択肢が欧米並みに増加した現状では,本剤のうつ病治療における役割は終えたと考えられることから,うつの効能を削除することが現時点では適切と判断した。
うつの効能削除に当たって,一律に推奨される代替治療方法がある訳ではないが,患者個々の状態に基づく治療指針の再構築によって,複数の抗うつ薬の投与や修正型電気痙攣法など,患者の症状に合わせて適切な治療方法を選択することが可能と考える。国内においても,既に海外と同様に異なる作用機序の薬剤が上市され,新たな薬剤を用いた治療方法が定着してきている現状から,本剤の代替療法を設定できるものと考えている。


(上掲PDFファイル、3ページ。 強調は引用者。)


【最初の強調部分について】
うつ病治療の選択肢が欧米並みかどうか、FDAの資料と、日本の資料を表にまとめてみた。

FDA承認薬 厚労省承認薬
Anafranil (clomipramine) アナフラニール(塩酸クロミプラミン)
Asendin (amoxapine) アモキサンアモキサピン
Norpramin (desipramine HCl) *1 
Sinequan (doxepin)  
Imipramine (Tofranil) トフラニール(塩酸イミプラミン)
Tofranil-PM (imipramine pamoate)  
Pamelor, Aventyl (nortriptyline) ノリトレン(塩酸ノルトリプチリン)
Vivactil (protriptyline)  
Surmontil (trimipramine) スルモンチールマレイン酸トリミプラミン)
Elavil (amitriptyline) トリプタノール(塩酸アミトリプチリン)
*2  アンプリット(塩酸ロフェプラミン)
*3 プロチアデン(塩酸ドスレピン)
FDA承認薬 厚労省承認薬
Ludiomil (maprotiline) ルジオミール)塩酸マプロチリン
Remeron (mirtazapine)  
  塩酸ミアンセリンテトラミド*4
  マレイン酸セチプチリン(テシプール
FDA承認薬 厚労省承認薬
Desyrel (trazodone HCl) レスリン/デジレル(塩酸トラゾドン
Serzone (nefazodone HCl)  
Ludiomil (maprotiline) ルジオミール)塩酸マプロチリン
FDA承認薬 厚労省承認薬
Luvox(fluvoxamine maleate) デプロメール/ルボックスマレイン酸フルボキサミン
Paxil (paroxetine HCl) パキシル(塩酸パロキセチン水和物)
Zoloft (sertraline HCl) ジェイゾロフト(塩酸セルトラリン
Prozac (fluoxetine HCl)  
Pexeva (paroxetine mesylate)  
Lexapro (escitalopram oxalate)  
Celexa (citalopram hydrobromide)  
Paxil CR (paroxetine HCl)*6  
Prozac Weekly(fluoxetine HCl)*7  
FDA承認薬 厚労省承認薬
*8 トレドミン(塩酸ミルナシプラン
Cymbalta (duloxetine)  
Effexor (venlafaxine HCl)  
Effexor XR (venlafaxine HCl)*9  
FDA承認薬 厚労省承認薬
Wellbutrin (bupropion HCl)  
Zyban (bupropion HCl)  
Wellbutrin XL (bupropion HCl)*10  
  • モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)*11
FDA承認薬 厚労省承認薬
Nardil (phenelzine sulfate)  
Parnate (tranylcypromine sulfate)  
Marplan (isocarboxazid)  
Emsam (selegiline)  

  • その他

PMDD(月経前不快症候群)に使用する薬

Sarafem (fluoxetine HCl)−成分はプロザックと同じ


主にうつ以外の精神疾患などに使われる薬

Etrafon (perphenazine/amitriptyline)
Limbitrol (chlordiazepoxide/amitriptyline)
Seroquel (quetiapine)
Symbyax (olanzapine/fluoxetine)
Triavil (perphenazine/amitriptyline)

  • 参照URLなど

上掲、ノバルティス提出書類

Antidepressant Use in Children, Adolescents, and Adults (FDA、CDER)
http://www.fda.gov/cder/drug/antidepressants/default.htm

Antidepressants: Selecting one that's right for you(Mayo Clinic
http://www.mayoclinic.com/health/antidepressants/HQ01069


http://en.wikipedia.org/wiki/Lofepramine
http://en.wikipedia.org/wiki/Mianserin
http://en.wikipedia.org/wiki/Milnacipran
http://www.effexorxr.com/
http://www.wellbutrin-xl.com/
http://www.nlm.nih.gov/medlineplus/druginfo/medmaster/a695005.html
http://www.pexeva.com/

この状況を見る限り、欧米並みとは言い難いと思うのだが・・・


【2番目の強調部分について】

修正型電気痙攣法(mECT)は難治性うつや遷延性うつには有効な治療法であることは確かだが、それ以外は同意しかねる。

上の参照リンクでもあげたMayo Clinicの情報だが、ここのうつ病情報*12は患者や家族は必読だと思う。

例えば、この治療抵抗性(つまり難治性)うつについてだが、いろいろな療法が紹介してある。それに加え、わたしが重要だと思うのは以下のような指摘だ。

Treatment-resistant depression: Explore options when depression won't go away
http://www.mayoclinic.com/health/treatment-resistant-depression/DN00016

What is the goal for treatment-resistant depression?

Some evidence indicates that some doctors and their patients don't aim high enough when it comes to depression. The goal with any depression treatment should be the relief of all symptoms. Research suggests that people who achieve full remission are less likely to have a relapse of their depression later, compared with people who don't achieve a full remission. That's why it's important to continue to push for a treatment that is fully effective. Don't be satisfied with partial effectiveness.


要するに、中途半端な治療で妥協せずに、完全に治すことが第一目標で、それがうつの再発予防につながるということだ。

また、上記の表の参照リンクであげたページには、抗うつ剤はそれぞれ利点と欠点があり、また人によって合う合わないがあるから、ある程度試しても効果が得られない場合は、抗うつ剤を変えて行って合うものを探す治療戦略が述べられている。
言いかえれば、治療薬の選択肢は多ければ多いほど完治の可能性も高まるわけで、いつまでも古いSSRIを新薬と言って喧伝するだけでなく、さらに新しい薬の認可を積極的に行ってほしい。これは「うつ」に限った話ではなく、すべての疾患についても当てはまる。

Mayo Clinicは全米を代表する有名病院だが、アメリカにはMayoに限らず最新の研究に基づいた医療情報*13を積極的に公開している医療機関や大学は多い。日本の大学や医療機関も見習うべきだと思うが。

*1:パートフラン(塩酸デシプラミン):発売中止

*2:イギリスでは、Lomont(lofepramine hydrochloride)で発売

*3:イギリスでは、Dosulepin(Dosulepin hydrochloride)で発売

*4:mirtazapineのほうが効力に優れているため現在は使われていない国が多い

*5:とりあえず訳

*6:1日1回の服用で済むタイプのパキシル

*7:週1回の服用で済むタイプのプロザック

*8:オーストラリアではIxel (milnacipran)で承認、アメリカおよびカナダで承認申請済み

*9:徐放型Effexor、1日1回の服用で済む

*10:徐放型WellButrin、1日1回の服用で済む

*11:日本では使われていない

*12:うつ病に限らずすべての疾患

*13:Mayo Clinicの医療情報サイト http://www.mayoclinic.com/