文部科学省と渡海文科相の暴走

指導要領告示 ルール無視の修正だ (信濃毎日新聞 – 2008年3月29日) 魚拓

文科省は「強制の意図はない」という。だが、同省のこれまでの説明では、学習指導要領には法的拘束力があることになっている。言うことがちぐはぐだ。


学習指導要領の法的拘束力については議論が分かれているが、いずれにせよ、このままで教育現場で実践される可能性が極めて高い。特に、「愛国心を鼓舞する道徳その他の授業」、「国歌を歌わせる指導」、「神話を題材とした授業」が教師の勤務評定に結びつくことは確実である。

また、修学旅行や社会見学などで「靖国神社遊就館)」がコースに入ってくる可能性も高い。これらの行事の前には、生徒に事前学習を行わせるのが通例になっているが、靖国神社に否定的な内容を教師が教えることはもちろん、生徒が調べてきた内容も不適切だとして再調査させる指導も出てくるであろう。ネットで「遊就館」にアクセスさせ情報収集したものを事前学習で発表させ、靖国神社にある本物の遊就館で更に学習を深めるという授業が全国各地で実践されることも容易に推測できる。

政府や旧文部省と職を賭して闘った年代が大量定年退職するため、教職員はかつてのような子供を権力の横暴から守る力とはなりえておらず、現場にいる教職員の多くが上からの命令に従順である。また、保護者や世論の多くも、いわゆる「組合教師」の実践や信念を応援していない。

文部科学省は、新学習要領の重点を前倒ししてくるであろうから、4月から小中学校が一挙に「愛国」色に染まり上がる危険性は極めて高い。


【暴走の記録】

2008年3月19日、衆議院文部科学委員会における渡海大臣の発言

○渡海国務大臣
・・・学校教育のある意味の最低のガイドラインということを書いていくのが学習指導要領であるというふうに理解していただきたいと思います。


○石井(郁)委員 
しかも、この学習指導要領というのは、最低基準と言われましたように、これは私、見ましたけれども、「すべての児童に対して指導するものとする内容の範囲や程度等を示した」と。これはすべての児童なんですよ。すべての児童がこれを身につけなきゃいけないという拘束性を持ったものなんですよ。・・・


○渡海国務大臣 
今まさに先生がおっしゃったように、例示でございますから、いろいろな意味で、現場で工夫されることはむしろ積極的にやっていただきたいというふうに考えます
 同時に、紙に書いて、こういうものだけではなかなか趣旨が伝わりにくいわけでありますから、そういったことをきっちりと現場に伝えていくという作業をやはりしっかりすることが重要なんだろう。


(強調は引用者、以下同じ)

2008年3月27日、参院文教科学委員会における渡海大臣の発言

「靖国訪問禁止通達は失効」 渡海文科相明言 (MSN産経 – 2008年3月27日)

占領下の昭和24年に出された国公立小中学校の靖国神社訪問などを禁じた文部事務次官通達をめぐり、教育委員会の一部で「今も効力を持っている」と誤解されている問題で、渡海紀三朗文部科学相は27日、参院文教科学委員会で同通達が「既に失効している」と明言し、「今後、誤解が生じないよう、適切に対応したい」と表明した。衛藤晟一氏(自民)に対する答弁。


 同通達には、児童生徒の神社仏閣など宗教的施設への訪問で「礼拝目的」を禁じる内容に加え、「靖国神社護国神社および主として戦没者を祭った神社を訪問してはならない」とする項目がある。今回、同項目について失効が明言されたことで、児童生徒の靖国神社訪問や、戦没者追悼行事への参加の障害がなくなることになる。


 衛藤氏は「戦没者追悼の中心的施設の靖国神社に学校として訪問し、わが国の戦没者追悼のあり方を児童生徒が知る機会を奪われてきたのは、大変な損失だった」と指摘。


 渡海文科相は「通達は戦後の特殊な状況下で作成されたもので、現在において靖国神社などを他の神社と異なる扱いにする理由はない」と述べた。

 また、学校で靖国神社など特定の宗教的施設について批判的な授業を行うことについても、「国公立学校は宗教に対する援助や圧迫などに当たる活動は禁止されている」として、「差別的な扱いは解釈を押し付けることになり、好ましくない」との認識を示した

2008年3月28日

日本の新学習指導要領、愛国心を強化 (朝鮮日報 – 2008年3月29日)

日本の文部科学省は28日、義務教育の小中学校での教育内容に直接影響を与える学習指導要領を愛国心を強調する方向で見直し、正式に発表した。政界の圧力を受け、新指導要領には総則に「我が国と郷土を愛し」という文言が新たに加えられ、音楽の教育方針には「『君が代』はいずれの学年においても歌えるよう指導する」と明記した。


 2月に発表された改訂案には「愛国心」に関する記述はなかった。また、『君が代』をめぐっては「指導する」としただけで、「歌えるようにする」との文言はなかった。朝日新聞は「保守系の国会議員らから改訂案への不満が出ていたこともあり、文科省は異例の修正に踏み切った」と伝えた。


(中略)


 一方、渡海紀三朗文部科学相は27日、国公立小中学校の生徒たちの靖国神社訪問などを禁じた1949年の政府通達について、「既に失効している」と明言した。靖国神社は太平洋戦争の戦死者を祭る宗教施設で、日本の戦争史を正当化する戦争博物館遊就館)が境内にある。